第3次ジンギスカンブームを深読み!生ラムの流通が変えた羊肉の価値

今回読み解く記事
オリジナル
私史上、最高のジンギスカン
それは、私の知っているジンギスカンではなかった。
皿に盛られたラムは、透明感のあるルビー色をしていた。
かつてのような濃い赤ではない。
脂は白く、冷凍肉に見られるくすみやドリップもない。
素人目にも「いい肉」ということがわかる。
焼く前から、違いは明らかだった。
生ラムをサッと焼き、塩をつけ、口に運ぶ。
その瞬間、「うまっ!」という声が思わず漏れた。
ラム特有のにおいがないのだ。
羊肉特有の、個性が消えているわけではない。
ただ、それは肉の奥底に存在し、前面に出てこない。
代わりに感じるのは、柔らかさと、極上の旨味だった。
私史上、もっとも美味しいジンギスカンといっても過言ではない。
同時に、疑問が浮かんだ。
ジンギスカンは、いつからこんなおいしくなったのだろうか?と。
現在のジンギスカンブームは第三次
ジンギスカンは、これまでに三度の波がある。
第1次は、戦後から高度成長期にかけての時代だ。
羊肉は安価なタンパク源として広まり、北海道を中心に大衆料理として定着した。
この時代の主流はマトンであり、においを緩和させるため、濃いタレとともに食べるのが一般的だった。
第2次は、1990年代後半から2000年代初頭にかけてである。
都市部でジンギスカン専門店が急増し、2003〜2004年頃にはテレビや雑誌で「ジンギスカンブーム」と頻繁に報じられた。
東京・恵比寿の「くろひつじ」(2000年開業)などが象徴的存在として注目を集め、
北海道の有名店も観光客を通じて全国的に認知を広げた。
しかし、この時点でも流通の中心は冷凍肉であり、羊肉のイメージそのものを変えるには至らなかった。
そして現在、第3次の波が訪れている。
今回の特徴は、明確だ。
フレッシュな「生ラム」の流通である。
冷蔵輸送技術の進化により、羊肉は凍らせることなく日本へ運ばれるようになった。
真空パックされ、低温で管理されたラム肉は、品質を保ったまま店に届く。
その結果、羊肉は「匂いのある肉」から、「味わう肉」へと変わった。
私の住んでいる地域でもジンギスカンの店は乱立しており、
いずこも予約しないと入れないほどの人気ぶりだ。
そして、どの店も「生ラム」を売りにしている。
日本の羊肉はほとんどが輸入である
「生」といっても、農林水産省の統計によれば、日本で流通する羊肉のほとんどは輸入であり、国産は1%未満に過ぎない。
主な輸入先はニュージーランドとオーストラリアである。
しかし、ここにきて大きな変化がある。
かつて羊肉は、ほぼ例外なく冷凍で輸送されていた。
冷凍は長期保存には適しているが、解凍の過程で肉の細胞が壊れ、水分が流れ出る。
いわゆるドリップである。
これが独特の匂いを生み、羊肉特有の「臭み」をより増長させていた。
そのため、ジンギスカンは味の濃いタレとともに食べる料理として発展した。
タレは単なる味付けではなく、羊肉の臭みを包み込む役割を担っていたのである。
しかし現在は違う。
冷蔵輸送技術の進化により、屠畜されたラム肉を凍らせることなく、日本へ運ぶことが可能になった。
真空パックされた肉は、0〜2℃という低温で管理され、約10日から2週間かけて日本に届く。
この間、肉は劣化をするのではなく、熟成する。
熟成によってアミノ酸が増え、より一層おいしくなるのだ。
輸入量の増加が示すもの
現在、日本の羊肉輸入量は近年増加傾向にあり、2024年には約1万6000トンと、過去10年でも高い水準となった。
これは単にジンギスカン人気が復活しているというだけではない。
羊肉そのものの質が変わり、料理として格が上がったことを意味している。
かつてジンギスカンは、大衆料理の代表格だった。
そこでは肉の質というよりも、量と安さが重視された。
しかし、いま目の前にある生ラムは違う。
以前よりも値段も質も上がっている。
味も濃いタレでなく、塩だけで十分においしい。
むしろ、余計な味付けを必要としないほどのレベルになっている。
流通が食文化を変える
食文化を変えるのは、料理人だけではない。
流通も大きく関わっている。
どんなに優れた食材であっても、適切に運ばれなければ、その価値は届かない。
かつては北海道でしか味わえなかった新鮮な生ラムが、いまは都市の店でも当たり前のように提供されている。
羊そのものが変わったわけではない。
変わったのは「流通」である。
流通の進化によって、私たちはようやく、羊肉が本来持っていた味に出会うことができたのだ。
あの日食べたラムは、流通が書き換えたジンギスカンのひとつの到達点だった。
ジンギスカンは、いま新しいフェーズに入っている。
深読みポイント
- 第3次ジンギスカンブームの立役者は流通技術だった
- 羊肉の再評価は流通の影響が大きい


