【連載3】中しまりんの琴線深読みLab ~脳・身体・細胞を調律する、箏と音の科学~

「箏のことは知らないのに、なぜか懐かしくて涙が出る」

そんな感想を多くいただきます。

「琴線」とは、心の奥にある感動の糸であり、箏の弦そのもの。

ここは、箏Remedist・中しまりんが、音楽心理療法や量子力学の視点でその「不思議」を紐解く場所です。

脳が安らぐ周波数から、細胞を震わせる振動まで。

音が持つ「見えない力」を可視化し、あなたの心身を美しく調律するための実験室(ラボ)へようこそ。

~音が引き出す本来の力。BTS・SUGAの活動から見つめる音楽の可能性~

音楽と心理学がリンクするBTSのメッセージ

2026年3月20日、韓国の7人組ボーイズグループBTSが、兵役後初となる完全体での復帰を果たします。
彼らが作り出す音楽や強烈なダンスパフォーマンスは、世界中で広く愛されてきました。
翌21日には、Netflixでカムバック公演が世界同時生配信されます。

私が彼らの音楽を本格的に聴き始めたのは、2022年の夏頃でした。
ちょうど音楽心理療法を学び始めて1年が経った頃ですが、心理学を勉強していくうちに、
彼らの楽曲やメッセージの随所にその要素が散りばめられていることを知りました。

彼らが発信する「LOVE MYSELF(自分自身を愛そう)」の精神に深く共感し、
ますますその魅力の深みへとハマっていったのです。

といっても、今回は「推し活」についての記事ではありません。

あなたは、2025年にメンバーのSUGA(本名ミン・ユンギ)が、
本格的に音楽療法の分野への支援に取り組み始めたことをご存知でしょうか。

SUGAは個人で50億ウォン(日本円で約5億円)という多額の寄付を行い、
ソウル・セブランス病院内に自閉スペクトラム症に焦点を当てた「ミン・ユンギ治療センター」を設立したのです。

SUGAも寄り添い共に音を奏でた、独自の「MINDプログラム」

このミン・ユンギ治療センターは、単なる施設の設立にとどまりません。
音楽療法士などの専門家たちと連携し、独自のプログラム「MINDプログラム」を開発・導入したことで大きな注目を集めました。

この「MIND」という名称には、Music(音楽)、Interaction(交流)、Network(ネットワーク)、Diversity(多様性)という深い意味が込められています。

音楽を起点とした交流を通じて、社会との繋がりを築き、多様性を認め合う世界を目指すという理念です。
このプログラムは、SUGAと小児精神科の権威であるチョン・グナ教授によって共同開発されたものです。

さらに、SUGA自身も週末を利用してセッションへ直接足を運びました。

子どもたちに寄り添いながら一緒に楽器に触れ、音の出し方をサポートするなど、現場での温かく実践的な支援も行いました。
彼のアクションが社会に与えた波及効果は絶大です。

SUGAの影響により、ファンを中心とした一般の人々からの寄付が急増しました。
その良い影響力は一過性のものではなく、今なお継続・拡大しています。

現地の最新報道によると、現在も世界中の数千人からセンターへ寄付が寄せられ続けており、
希望を分かち合う新しい文化として定着しつつあるといいます。
この「善意の連鎖」は海を越え日本にも届き、一般社団法人日本自閉症協会が感謝のコメントを発表するなど、
目に見える形となって社会を動かしています。

まだ知られざる「音楽心理療法」の世界

彼の活動を機に注目が集まる「音楽療法」ですが、日本ではまだその認知度は高いとは言えません。

特に、心理療法的アプローチの音楽心理療法となると尚更です。
音楽心理療法とは、音楽を聴いてリラックスするといった単なるリラクゼーションにとどまらず、
音楽や楽器を介して心の深層に働きかける音楽療法の一つです。

特徴的なのは、楽器を「自己や他者を映し出す象徴」として捉える点にあります。
上手なリズムを刻めるか、上手に歌えるかといった技術的な面は重要ではありません。
「その楽器にどう接するか」「どんな音を鳴らし、どう響かせるか」というプロセスそのものを観察し、
言葉にならない感情や心理状態を紐解いていくのです。

響きと共鳴が繋ぐ、言葉のいらないセッション

私が音楽を通した心理の世界に触れ、その学びを深めるほどに、音楽が人の心と身体に与える影響の大きさに驚かされます。
そして同時に、私が専門とする和楽器の「箏(こと)」にも、その役割を果たす十分な力が秘められていると感じています。

現在、私は一人の自閉症の男の子と、お箏を通じたセッションを行っています。
彼とは言葉によるコミュニケーションはほとんどありません。
しかし、お箏という楽器を介して、私たちの中には徐々に信頼関係が築かれてきていると実感しています。

楽器とのコミュニケーションは、自分自身との対話でもあります。

彼が自ら楽器に触れて音を鳴らし、その振動を体感することで、無意識のうちに自身の感情をコントロールし、
心のバランスを整える「情動調整」を行っているのです。
彼が楽器と触れ合う様子や音色に耳を澄ませる表情の変化を見ていると、
言葉以上に雄弁な「心の対話」がそこにあることに気づかされます。

音楽が持つ力を、もっと身近に

SUGAの「ミン・ユンギ治療センター」設立というニュースは、音楽が持つ可能性を世界に再認識させてくれました。

昨年の12月には、MINDプログラムの子どもたちによる初の一般公開パフォーマンスとなる「Shining MINDs」コンサートも開催されました。

今後は、音楽だけでなく、美術、運動、その他の多様な芸術プログラムへと広げていく予定とのことで、
将来的にこのプログラムがどのように成長していくのか大いに注目したいところです。

また、これをきっかけに、「音楽が持つ可能性」がさらに多くの人に知られることを願ってやみません。

音楽は、言葉での表現が難しい子どもたちに代わりの「声」を与え、
音を共有することで、MINDプログラムが掲げるような彼らと社会を繋ぐ温かいコミュニティを創り出してくれます。

こうした取り組みには、目に見える短期的な成果ばかりを求めるのではなく、
彼らの歩幅に合わせて長期的に見守る「社会の寛容さ」が必要です。

日本でも和楽器を含めた多様な音楽を使ったアプローチが広がり、
社会全体でゆったりと彼らの成長を支援できるような土壌が育っていくことを、心から期待しています。

連載第2回目はコチラから。

【関連リンク】
BTS SUGA韓国最大のアーティスト支援で「ミンユンギ治療センター」設立を伝える記事
善循環する『善なる影響力』
一般社団法人日本自閉症協会のツイート

プロフィール

中しま りん /  箏アーティスト・箏Remedist

富山県出身。5歳より箏を始める。シンガーソングライターを経て、2004年より箏アーティストとして本格的に活動を開始。ピアノやギターとのアンサンブルを軸に、伝統の枠を超えた音楽制作を行う。

2025年には、自作曲『爛漫』がゆずの楽曲『尤』(テレビアニメ『ポケットモンスター エピソード:メガシンカ』主題歌)のモチーフに採用されたほか、日本テレビ系ニュースのお天気テーマへの楽曲起用、文化庁事業による全国100校以上での公演など、国内外で幅広く活動。

中しま りん / 箏アーティスト・箏Remedist

こうした多彩な表現活動を展開するなかで、近年は「音と人の深層」への探求を深める。

ドイツ・ハンブルク国立音楽大学提携プログラムによる音楽心理療法を学び、現地の病院で実習に参加するなど研鑽を積む。現在は、箏の持つ音響特性に加え、演奏時の脳機能や身体運動、心理的プロセスなど、多角的な視点からそのメカニズムを統合的に捉え直し、自閉症児へのセッションなど実践的なアプローチを行っている。

演奏家の枠を超え、箏を「心と身体を整えるエネルギー療法のツール」として再定義するその活動は、伝統文化の新たな可能性を広げている。

ジャズピアニストとのユニットYAMATO LOUNGE、絵本読み聞かせコラボ、マルチメディアユニットCOMNAL、ポッドキャスト番組「スナックちゃべ」のパーソナリティ、Otonamiでの寺院体験演奏など、多岐にわたる活動を通じて現代における癒しと再生を提案している。

リンク

琴線Lab HP

https://kinsenlab.com

大人のための非日常体験Otonami 箏体験

https://otonami.jp/experiences/nakashimarin-2ryomon

最新情報・イベント出演情報

【春のお彼岸 お中日特別演奏】

日時:2026年3月20日(祝・金)
14時〜春季彼岸会法要終了後

出演:尺八:櫻井咲山
箏:磯貝真紀、中しまりん、三浦可栄

場所:安詳寺(あんじょうじ)
東京都大田区久が原4丁目4−10
   ※入場無料