フリック入力を深読み!若者はデフォルト、では50代以上は?

今回読み解く記事

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若者にとって当たり前の「フリック入力」

過日、若手編集者と一緒にする際、彼女がスマホでメールを打つ動作を見て驚いた。

私のようにトントンと押すのではなく、指をスーッと動かして入力しているではないか。
不思議そうに見ていると「あ、これフリック入力っていうんですよ」と教えてくれた。

フリック入力の「フリック」とは、英語で“はじく”という意味。
画面を軽くタップし、そのまま指をはじくように動かして文字を打つ。
スマホ特有の入力方法である。

ガラケー世代の私にとって、ちょっと新鮮だったと同時に、
「フリック入力なんて、絶対できない……」と愕然としてしまった。

「最初からスマホの世代」と「ガラケーを経てスマホになった世代」の違い

ガラケーの頃は、同じキーを何度も押して文字を選んでいた。
いわゆる「トントン入力」である。
ガラケーを経てスマホになった世代は、その感覚が身体に染みついているから、どうしても指が迷う。

今、私も必死になってフリック入力を練習しているのだが、
返事を早くしたい場合は「トントン入力」に即戻ってしまう。
そして、「あ、やっぱりこっちのほうが安心」と毎度ホッとしている。

では、なぜ若者は、あれほど自然にフリック入力ができるのか?

理由は単純。
彼らは最初からスマホで文字を打っているからだ。

最初に触れた入力方法がフリックであれば、それが基準になる。

フリック入力が若者に選ばれるワケ

①最短距離で打てる

ガラケーのトントン入力は、同じキーを何回も押すので、
その分、時間がかかる。

一方フリック入力は、1回+方向だけで1文字打てるので時間が短縮できる。
言わば「タイパ」(タイムパフォーマンス)がいい。

また、脳的にも「少ない動作で結果が出る方」を選ぶのは自然。

②指の動きが“スマホに合っている”

若い世代は最初からスマホなので、親指1本で操作する前提の体になってる。

・片手で持つ
・親指でスッと動かす
・画面を見ながら直感的に操作

フリック入力は、完全にこの動きと完全に一致してる。
つまり、
技術に合わせて人が変わったのではなく、
人の使い方に合わせて入力方法が最適化された
のだ。

一方、ガラケーは「配置を覚える」だったのが主。
「方向で感覚的に打つ」フリック入力とは大きな違いがある。

若い世代は、記憶よりも感覚で使える操作に強い。
それ故にフリック入力が定着したのだと思う。

③思考のスピードに合わせた入力方法

・考えたことを止めずに打てる
・リズムを崩さない
・身体の動きと一致している

故に若者にとってフリック入力は「便利」というよりも、「自然」に近いのだ。

世代差の正体

一方、ガラケーを経てきた私たちにとって、フリック入力は便利でもないし、自然でもない。
すでに身につけたトントン入力がデフォルトになっているので、新しい動きに違和感を覚える。

こうした感覚の背景には、「現状維持バイアス」と呼ばれる心理がある。
アメリカの経済学者ウィリアム・サミュエルソンとリチャード・ゼックハウザーの研究では、
「人は変化よりも今の状態を維持しようとする傾向がある」ことが示されている。

また、アメリカの心理学者ダニエル・カーネマンらが提唱した行動経済学では、
人は「得をする喜び」よりも「損をする痛み」を約2倍強く感じると言われている。

つまり、新しいやり方に挑戦して失敗するリスクは、実際以上に大きく感じられてしまう。
今できていることを崩すリスクのほうが気になるのだ。
加えて、こうした損失回避の傾向は、年齢を重ねるほど強まりやすいことも指摘されている。

だから新しい操作に触れたとき、「難しい」「自分には向いていない」と感じてしまい、
挑戦することすらしなくなってしまう傾向にあるのだ。

フリック入力を機に、さまざまな「当たり前」を更新しよう

現状を維持し、変化を避けようとするのは、人に備わった自然な傾向である。
フリック入力に変えるのが面倒というのも、その延長にある。

ヨーロッパの認知心理学の研究でも、年齢そのものより、どれだけ使っているかが上達に影響するとされている。
つまり「慣れ」なのだ。

だからこそ、少しずつでもフリック入力を練習すれば、体は徐々に順応していく。
最初はぎこちなかった指の動きも、やがて自然になる。

新しいことに挑戦するのは、めんどくさいし、できることなら今のままでいいと思う。
だが、挑戦する過程で脳は刺激を受け、動き続ける。
医学的にも、新しいことに取り組むと、脳の神経回路の働きが活発になり、機能の維持や向上につながると言われている。

その変化は、フリック入力のような身近な操作でも実感できる。
やればやるほど、指の動きがなめらかになり、打つ速度も上がっていく。

こうした変化は、日常のさまざまな場面にも当てはまる。

だからこそ、ほんの少しだけでも、新しい挑戦をしてみる。
その積み重ねが、いつのまにか自分にとっての「当たり前」を更新していく。