【連載5】中しまりんの琴線深読みLab ~脳・身体・細胞を調律する、箏と音の科学~

「箏のことは知らないのに、なぜか懐かしくて涙が出る」
そんな感想を多くいただきます。
「琴線」とは、心の奥にある感動の糸であり、箏の弦そのもの。
ここは、箏Remedist・中しまりんが、音楽心理療法や量子力学の視点でその「不思議」を紐解く場所です。
脳が安らぐ周波数から、細胞を震わせる振動まで。
音が持つ「見えない力」を可視化し、あなたの心身を美しく調律するための実験室(ラボ)へようこそ。
「推し」を愛するあなたは、自分を愛せているか ー 推し活の現在地を深読み!
娯楽から「人生の固定費」へと進化した巨大市場
突然ですが、あなたは今、心から「推せる」ものがありますか?
かつては一部のサブカルチャーと見なされがちだった「推し活」ですが、今やその景色は一変しています。
推し活総研が2026年1月に実施した第3回大規模調査によると、推し活人口は約1,940万人、市場規模は約4.1兆円にのぼると推計されています。
物価高騰下でも関連支出を減らさない層が約5割おり、推し活は娯楽費から、自分らしさを守り生活の質(QOL)を維持するための「固定費」へと意味合いを変えているのです。
心理学的観点からも、推し活は自己肯定感の向上やコミュニティへの所属欲求を満たす役割を担っています。
「推しが好き」という純粋な感情は、自分の感性を肯定し、同じ熱量を持つ仲間との繋がりを生む。
さらに、日常のストレスや満たされない感情を「推しを応援する」エネルギーへと変えたり、現実の不安から一時的に距離を置く心の拠り所になったりもする。
つまり推し活は、心を満たしながら守るという、ストレス社会を生き抜くための自然な心の働きといえるのです。
そんな中、現代の巨大ファンダムと私たちの関係性を浮き彫りにしたのが、2026年の本屋大賞を受賞した朝井リョウ氏の小説『イン・ザ・メガチャーチ』です。
同作では、ファンダム経済を仕掛ける側とのめり込む側の視点から、人々が「物語」に依存し、熱狂の渦に巻き込まれていく姿がリアルに描かれています。
私自身、熱狂的なファンダムを持つアーティストを推しており、読みながら身につまされる思いを抱く場面も多々ありました。
数万人規模の巨大教会(メガチャーチ)での熱烈な信仰になぞらえられるほど、現代の推し活は強固な共同体と強烈な消費衝動を生み出す力を持っています。 私たちファンは、知らず知らずのうちにその巨大な熱狂のシステムの中で生きているのです。
日常とのバランスを保つ「自分だけの推し活」という選択
近年、SNSを通じた常時接続への反動として、スマホの電源を切って目の前の感動に五感を集中させたり、他者からの承認を求めず、自分だけの内面的な体験として推し活を楽しんだりする——そんな声も少しずつ聞かれるようになってきました。
私自身、箏の演奏に集中している瞬間や、好きな映画や本に没頭している時、SNSの喧騒から切り離された自分に戻れる感覚があります。
それは、「心のライフライン」とも呼べる、静かで確かな繋がりです。
大切なのは、社会的な正解や他人のモノサシではなく、自分自身の五感がどう震えているか。その一点に集中することなのです。
自分を愛し、多様な「好き」を分かち合える寛容さへ
そして、そこから視野を広げると、「推し」の対象は、人だけではないことに気づきます。
アニメや漫画はもちろんのこと、音楽、アート、自然、料理、伝統文化まで ——
何であれ、心がワクワクし、細胞レベルで体が喜ぶような「熱中できる何か」を持っていること自体が、人間にとって根源的な力の源なのだと思います。
さらに、推しへの愛は、自分を慈しむことと地続きです。
推し活を通じて異なる価値観に触れ、世界の広さを知る。
多様なあり方を受け入れていくプロセスは、巡り巡って、ありのままの自分を肯定する力へと変わっていくでしょう。 琴線を震わせるものを大切にすること。それはすなわち、自分を大切にし、世界を豊かに受け取る第一歩となるはずです。

連載第4回目はコチラから。
【出典・参考・関連リンクなど】
- 『イン・ザ・メガチャーチ』 朝井リョウ 著(日本経済新聞)
- 【2026年最新版】推し活トレンド完全ガイド|4兆円超の市場を牽引する最新スタイルと楽しみ方
- 【Inter BEE CURATION】【ひと研究所26年最新調査】「推しがいる」人はついに4割超!推し活に月10万円以上使う人は20代が最多
- 推し活に関する意識・実態調査 2026 – タニタ
- オタクのSNS疲れにデジタルデトックス。スマホ離れするための具体的なTipsを紹介(ソレドコ)
- “推し疲れ”が増加中!マウントの取り合いはストレスの原因に…予備軍認定の5つの危険信号と対処法(FNNプライムオンライン)
深読みポイント
- 推し活は「心のライフライン」へ: 4兆円規模の市場を支えるのは、単なる消費欲ではなく、自分らしさを守るための切実な願い。娯楽を超え、日々のレジリエンス(精神的回復力)を支える不可欠な心の基盤へと進化している
- 「自分サイズの愛」が寛容さを育む: 対象が人であれ物事であれ、他人のモノサシを捨てて「自分流の好き」を肯定することは、他者の多様な価値観を尊重する第一歩。自己受容が社会の寛容さへと繋がっていく
プロフィール
中しま りん / 箏アーティスト・箏Remedist
富山県出身。5歳より箏を始める。シンガーソングライターを経て、2004年より箏アーティストとして本格的に活動を開始。ピアノやギターとのアンサンブルを軸に、伝統の枠を超えた音楽制作を行う。
2025年には、自作曲『爛漫』がゆずの楽曲『尤』(テレビアニメ『ポケットモンスター エピソード:メガシンカ』主題歌)のモチーフに採用されたほか、日本テレビ系ニュースのお天気テーマへの楽曲起用、文化庁事業による全国100校以上での公演など、国内外で幅広く活動。

こうした多彩な表現活動を展開するなかで、近年は「音と人の深層」への探求を深める。
ドイツ・ハンブルク国立音楽大学提携プログラムによる音楽心理療法を学び、現地の病院で実習に参加するなど研鑽を積む。現在は、箏の持つ音響特性に加え、演奏時の脳機能や身体運動、心理的プロセスなど、多角的な視点からそのメカニズムを統合的に捉え直し、自閉症児へのセッションなど実践的なアプローチを行っている。
演奏家の枠を超え、箏を「心と身体を整えるエネルギー療法のツール」として再定義するその活動は、伝統文化の新たな可能性を広げている。
ジャズピアニストとのユニットYAMATO LOUNGE、絵本読み聞かせコラボ、マルチメディアユニットCOMNAL、ポッドキャスト番組「スナックちゃべ」のパーソナリティ、Otonamiでの寺院体験演奏など、多岐にわたる活動を通じて現代における癒しと再生を提案している。
リンク
琴線Lab HP
大人のための非日常体験Otonami 箏体験
https://otonami.jp/experiences/nakashimarin-2ryomon


