【連載9】中しまりんの琴線深読みLab ~脳・身体・細胞を調律する、箏と音の科学~

「箏のことは知らないのに、なぜか懐かしくて涙が出る」
そんな感想を多くいただきます。
「琴線」とは、心の奥にある感動の糸であり、箏の弦そのもの。
ここは、箏Remedist・中しまりんが、音楽心理療法や量子力学の視点でその「不思議」を紐解く場所です。
脳が安らぐ周波数から、細胞を震わせる振動まで。
音が持つ「見えない力」を可視化し、あなたの心身を美しく調律するための実験室(ラボ)へようこそ。
「脱サラ」か「会社人をまっとうする」か。ミドルシニア世代の決断を深読み!
49歳、安定を手放し手に入れたもの
2026年の夏も終わろうとしています。
個人的な話になりますが、今年の夏はある一つの挑戦をしました。
鮨職人の夫と私で、鮨と箏のイベントを開催したのです。イベントといっても小さな会で、参加してくださったのは日頃からお付き合いのあるごく少数の方々でした。
実は、私の夫は6年前、49歳の時に脱サラをして、現在も修業中です。
25年間勤めていた会社を離れて鮨修業の道に入ると決めた時、友人や知人の多くが「なぜ?」「もったいない」「定年まで働いて退職金をもらった方がいいよ」と言いました。もちろん、皆今後のことを心配してくれてのことだったのでしょう。
それまで培ってきた専門の分野を活かした起業や、長年の夢だった自分のお店を出す、などであれば周囲の反応もまた違ったのかもしれません。
でも、安定を手放し、「鮨職人」という一般的には厳しいと言われる世界に50歳手前で飛び込むことに、理解を示す人は多くはありませんでした。
私はというと、自分自身が日頃から好きなことをしているので、やりたいことに突き進む気持ちはわかります。
母子家庭育ちで、先が見えない人生には慣れっこだったし、やりたいことが見つかってよかったね、という気持ちでした。
子どもがいなかったというのも大きな理由でしょう。
そんなこんなで気がつけば6年、最近ではお客様の前で鮨を握る機会も増えてきたタイミングで、夫婦コラボとなったわけです。
殻を脱いだ人たちに共通していたこと
あの決断から6年が経ち、夫は55歳になりました。
50代半ばという、ある意味で人生の節目とも言える時期を迎えた今、私の周りには、彼と同じようにこれまでの職を離れ、新たな道に進み始めた「同い年(55歳)」の方が二人いらっしゃいます。
組織を辞めた後のお二人に会って、私は驚きました。
おひとりは、見るからにまとう空気が以前とは異なっており、本人も「知らず知らずのうちに被っていた殻のようなものが剥けてきたのを感じる」と語っていました。
もうおひとりも、まるで少年のようにキラキラした目で、これからの夢を熱く語ってくれたのです。
お二人から感じたこの溢れんばかりのエネルギーは、一体どこから来るのでしょうか。
心理学には「内発的動機づけ」という言葉があります。
地位や報酬といった外側からの要因ではなく、「自分が純粋にそうしたいから」という内側からの欲求によって行動することです。
長年、社会的な役割(ペルソナ)に合わせて生きてきたお二人が、その殻を脱ぎ捨てて心からの欲求に従い始めた。あの輝きの理由には、そんなところも関係しているのかもしれません。 夫も含め、新たな道を選んだこの三人に共通していたのは「人生の残り時間を考えた」という言葉でした。
それを具体的に数え、本当にやりたいことのために使いたいと強く願ったこと。
それが「脱サラ」という大きな選択の決定打だったようです。
「組織に残る」という決断
一方で、今年定年を迎えた知人(以前アルバイトをしていた職場の先輩)から連絡がありました。その先輩は再雇用制度を利用し、今の会社であと5年働くといいます。
先日、久しぶりにお会いして話をする機会がありました。
先輩が語ってくれたのは、組織に残りながらも決して「受け身」にはならない、強い覚悟でした。かつて活躍していた先輩たちでも、皆「目が死んでいった」。
その様子を見てきたからこそ、自分はそうならないようにしようと決めていたそうです。
先輩は言います。
「『会社がこう言うから』と組織のせいにしたり、上司の機嫌をうかがったりするのは違う。『会社』という実体のない生き物は存在せず、単なる人の集まりに過ぎない。他人のせいにせず、自分が面白いと思うかどうかを大切にすべきだ」と。
そして、小手先のテクニックではなく現場での経験から培った「正論」を貫くことこそが、結果的に相手との良い関係や仕事の成果に繋がるのだと語ってくれました。
人生後半戦を輝かせるもの
脱サラをして新しい道へ進むお二人の目が生き生きしているように、組織に残りながらも「自分の意志」で仕事に向き合っている先輩の目もまた、力強く生きていました。
50代半ばからの人生の後半戦。
脱サラをして自分の夢を追いかけることも、組織に留まりその職をまっとうすることも、どちらが良い悪いではありません。
重要なのは、どちらの道を選ぶにせよ、そこに「自分で選んでいる」という感覚——自己決定感——があるかどうかです。
心理学者のエドワード・デシとリチャード・ライアンが提唱した「自己決定理論」では、人には三つの基本的な欲求があるとされています。
先ほどの自己決定感にあたるのが、自分の意志で選んでいるという感覚(自律性)。
あとの二つは、自分は力を発揮できているという感覚(有能感)と、誰かとつながっているという感覚(関係性)です。
この三つが満たされているとき、人の自発性や心理的な健康が高まるとされています。
年齢や、置かれた環境のせいにせず、自分が一番輝く方法で、心に嘘をつかずに過ごすこと。
自分を誤魔化さない生き方、それこそが、心身の底から湧き上がるような活力を生み出し、深い充足感をもたらしてくれるのかもしれません。
あなたは今、ご自身の心が本当に喜ぶ選択をしていますか?
連載第8回目はコチラから。
【最新情報・イベント出演情報】
■CAMPLUGGED vol.9
出演:YAMATO LOUNGE(中しまりん / 箏、後藤魂 / ピアノ)
出演日時:2026年10月10日(土)13:00〜13:40
詳細は、下記サイトをご覧ください。
https://www.biotopia.jp/mebyofes/
■COMNAL ライブパフォーマンス 2026 Nov「TETRAD テトラド」〜詩 × 朗読 × 箏 × ピアノ〜
出演:COMNAL(中しまりん / 箏、後藤魂 / ピアノ、坂城日日 / 朗読、Roy Taro / 詩)
出演日時:2026年11月6日(金)19:00〜21:00(18:30開場)
会場:En Dehors(東京都港区新橋5-29-4 吉岡ビル2F/JR新橋駅 徒歩6分)
会費:5,500円(税込・チャージ代込)/23席
ご予約は下記フォームより承ります。
https://forms.gle/HPPiY6mHKcTMrr3V7
■響きのファンタジア 絵本の読み聞かせコンサート〜クリスマススペシャル〜
出演:YAMATO LOUNGE(中しまりん / 箏、後藤魂 / ピアノ)/ 景山聖子(絵本読み聞かせ)
出演日時:2026年11月30日(月)13:30〜15:30
会場:日本橋三越本店 新館9階 三越カルチャーサロン
会費:5,500円(税込)
お申し込みは下記サイトより承ります。
https://mitsukoshi.mistore.jp/bunka/product/7050900000000000000003669907.html
【出典・参考・関連リンクなど】
・Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being. American Psychologist, 55(1), 68–78.
・Self-Determination Theory 公式サイト「Theory」https://selfdeterminationtheory.org/theory/
深読みポイント
- 役割(ペルソナ)を脱ぎ、内発的動機で生きる
- 幸福の鍵は環境ではなく、「自己決定感」にある
プロフィール
中しま りん / 箏アーティスト・箏Remedist
富山県出身。5歳より箏を始める。シンガーソングライターを経て、2004年より箏アーティストとして本格的に活動を開始。ピアノやギターとのアンサンブルを軸に、伝統の枠を超えた音楽制作を行う。
2025年には、自作曲『爛漫』がゆずの楽曲『尤』(テレビアニメ『ポケットモンスター エピソード:メガシンカ』主題歌)のモチーフに採用されたほか、日本テレビ系ニュースのお天気テーマへの楽曲起用、文化庁事業による全国100校以上での公演など、国内外で幅広く活動。

こうした多彩な表現活動を展開するなかで、近年は「音と人の深層」への探求を深める。
ドイツ・ハンブルク国立音楽大学提携プログラムによる音楽心理療法を学び、現地の病院で実習に参加するなど研鑽を積む。現在は、箏の持つ音響特性に加え、演奏時の脳機能や身体運動、心理的プロセスなど、多角的な視点からそのメカニズムを統合的に捉え直し、自閉症児へのセッションなど実践的なアプローチを行っている。
演奏家の枠を超え、箏を「心と身体を整えるエネルギー療法のツール」として再定義するその活動は、伝統文化の新たな可能性を広げている。
ジャズピアニストとのユニットYAMATO LOUNGE、絵本読み聞かせコラボ、マルチメディアユニットCOMNAL、ポッドキャスト番組「スナックちゃべ」のパーソナリティ、Otonamiでの寺院体験演奏など、多岐にわたる活動を通じて現代における癒しと再生を提案している。
リンク
琴線Lab HP
大人のための非日常体験Otonami 箏体験
https://otonami.jp/experiences/nakashimarin-2ryomon
●COMNAL
●Limb CJ, Braun AR (2008) Neural Substrates of Spontaneous Musical Performance: An fMRI Study of Jazz Improvisation. PLoS ONE 3(2): e1679.
最新情報・イベント出演情報
CAMPLUGGED vol.9
出演:YAMATO LOUNGE(中しまりん / 箏、後藤魂 / ピアノ)
出演日時:2026年10月10日 13:00〜13:40
詳細は、下記サイトをご覧ください。
https://www.biotopia.jp/mebyofes/

