【連載10】中しまりんの琴線深読みLab ~脳・身体・細胞を調律する、箏と音の科学~

「箏のことは知らないのに、なぜか懐かしくて涙が出る」

そんな感想を多くいただきます。

「琴線」とは、心の奥にある感動の糸であり、箏の弦そのもの。

ここは、箏Remedist・中しまりんが、音楽心理療法や量子力学の視点でその「不思議」を紐解く場所です。

脳が安らぐ周波数から、細胞を震わせる振動まで。

音が持つ「見えない力」を可視化し、あなたの心身を美しく調律するための実験室(ラボ)へようこそ。

「サ〜ラリン」って何の音?お経とお箏に息づく「口伝」を深読み——言葉が育む音の想像力

10月に入り、秋らしい陽気になってきました。

秋といえば、芸術の秋。
私もこの秋は、いくつかのイベントで演奏させていただきます。

どのイベントも楽しみですが、その中の一つに、お寺(納骨堂)での演奏があります。
箏とピアノ、そしてお坊さん方との共演も予定しています。

同じルーツ、異なるかたち

会場となる納骨堂は、普段からお箏の体験などでお世話になっているご縁の深い場所です。

同時に、大切な人を偲び、「生と死」に向き合う場でもあります。

箏の音楽が持つ精神性や、音が心身にどのように働きかけるのかということにも関心を寄せている私にとって、
このような空間での演奏は特別な意味を持っています。

以前、ご住職がお経やお念仏を唱えられるお姿を拝見した際、そのリズミカルな響きに豊かな音楽性を感じ、
「お坊さんはきっとリズム感が良いに違いない」と密かに感動していました。

今回ご一緒させていただくにあたり、改めてお経やお念仏の言葉、
リズム、間合いなどに向き合ってみると、そこには奥深い文化が息づいていました。

正直なところ、これまで仏教の「宗派」の違いについて、深くは理解していませんでした。
けれど、いろいろ調べているうちに、お寺の「宗派」と箏の「流派」に共通するものがあると気づきました。

仏教は、お釈迦さまの教えという同じルーツを持ちながら、宗派によって大切にするお経や、唱える言葉が異なります。
箏にも大きく分けて生田流や山田流などの流派があります。
ルーツは同じでありながら、爪の形や座り方、奏法、音色へのアプローチなど、それぞれに特徴があります。

形は少しずつ異なっていても、それぞれの教えや美意識が脈々と受け継がれている。

そのあり方に、仏教の宗派との共通点を感じたのです。

「コーロリン」に込められたもの

そしてもう一つ、お経と箏に共通しているのが「口伝(くでん)」という文化です。

箏の世界では、音や奏法を言葉にして伝える「唱歌(しょうが)」が、その大切な役割の一端を担ってきました。

「コーロリン」「シャシャテン」「ツルツルテン」「サ〜ラリン」

今でこそ箏も楽譜を使って習うのが一般的ですが、かつては師匠がこうした言葉で歌いながら、
弾き方を伝えていました。この独特の表現は現代にも残っており、実際の楽譜にも記載されています。

ここで、西洋音楽と比べてみると、面白い違いがあります。

例えば、ドレミは音の高さを表しますが、箏の唱歌は、音の高さが違っても、
同じ奏法や音の動きであれば「サ〜ラリン」といった同じ言葉で表します。

つまり、どの音を弾くかよりも、どのように音を動かし、響かせるか。

その「動き」や「質感」までもが、言葉に乗せられているのです。

口伝によって受け継がれているという点は、お経にも共通すると、ご住職から伺いました。
お経の経本には西洋の楽譜のように厳密なメロディが記されているわけではなく、
漢字という文字の連なりに対して、独特の節回しやリズム、間合いなどが、声を通して受け継がれてきたそうです。

楽譜の余白にある「想像力」

先日、海外の方に向けて演奏した際、箏の楽譜をお見せする機会がありました。

皆さん、楽譜が漢数字や漢字で書かれていることに大変驚かれていました。
(これは、日本の方にも驚かれますが…!)

箏の音楽では、例えば弦を擦るような、いわゆる「雑音」と捉えられかねない音も、音楽表現の一部として使用されます。

「そのような音符にならない音は、どう表記されているのか?」

「押し手(箏柱の左側の弦を左手で押し、音高や余韻を変化させる技法)のタイミングは、どのように分かるのか?」

と、次々に質問を受けました。

箏の楽譜では、奏法によって「オ」「ヲ」といった文字や、矢印などの記号が使われます。
もちろん、音の長さやリズムも記されていますが、音色の変化や微妙なタイミング、
その余韻まですべてが書き表されているわけではありません。

そこには、実際に音を聴き、身体で覚え、感じ取っていく部分が残されています。
書かれた文字や記号から、その行間を読み解き、ニュアンスを感じ取る。
これもまた、日本の伝統音楽が大切にしてきた伝え方の一つなのだと思います。

書かれていない部分までを伝え、受け取り、それが時代を越えて継承されていく。

そこで鍵となるのが「想像力」です。

以前、ピアノの先生をしている友人から、最近の子どもたちの中には、
「ここは、ふわっと弾いて」といった感覚的で抽象的な言葉から、
音のイメージをつかむのが難しい子が増えたように感じるという話を聞きました。

さまざまなことが言葉や数値で具体的に説明される現代だからこそ、
「コーロリン」や「ふわっと」といった感覚的な言葉から、
自分なりに音のイメージを膨らませる力は、より一層大切になっているのかもしれません。

そういう意味では、和楽器の「口伝」や「感覚的な言葉で音を伝える」という文化は、
単なる技術の継承にとどまらず、人の「想像力を育む」豊かな土壌なのだと感じます。

私自身、まだまだ発展途上です。

同じ楽譜を見ているのに、なぜ師匠とこうも音が違うのか。
お稽古のたびに思っていたものです。

そして、年齢を重ねるにつれて、私自身の表現も少しずつ変わってきました。

言葉から、音の動きや質感を思い描くだけでなく、その奥にある、伝えようとする人の意図まで想像する。
そして、それを自分の感覚や身体を通して、音楽として表現していく。

そこには、楽譜に書かれた音を正確に再現することとは、また違う音楽の奥深さがあるように思います。

そして、言葉の奥にあるニュアンスを感じ取ろうとする姿勢は、日常において、
言葉にされない相手の気持ちを想像すること、つまり「思いやり」にも繋がっているのではないでしょうか。

音楽では、鳴っている音だけでなく、音と音の間にある沈黙や、共に演奏する人の呼吸、わずかな気配を感じ取ることも大切です。

お寺という神聖な空間で、お坊さん方の木魚や太鼓の響きとともに唱えられるお経と、
箏やピアノの音色が、どのように響き合い、交差するのか。

そこには、楽譜だけでは生まれない「間」や「呼吸」があるはずです。

私自身、今からとても楽しみにしています。
皆様の心と身体に心地よい響きをお届けできるよう、心を込めて演奏してまいります。

連載第9回目はコチラから。

プロフィール

中しま りん /  箏アーティスト・箏Remedist

富山県出身。5歳より箏を始める。シンガーソングライターを経て、2004年より箏アーティストとして本格的に活動を開始。ピアノやギターとのアンサンブルを軸に、伝統の枠を超えた音楽制作を行う。

2025年には、自作曲『爛漫』がゆずの楽曲『尤』(テレビアニメ『ポケットモンスター エピソード:メガシンカ』主題歌)のモチーフに採用されたほか、日本テレビ系ニュースのお天気テーマへの楽曲起用、文化庁事業による全国100校以上での公演など、国内外で幅広く活動。

中しま りん / 箏アーティスト・箏Remedist

こうした多彩な表現活動を展開するなかで、近年は「音と人の深層」への探求を深める。

ドイツ・ハンブルク国立音楽大学提携プログラムによる音楽心理療法を学び、現地の病院で実習に参加するなど研鑽を積む。現在は、箏の持つ音響特性に加え、演奏時の脳機能や身体運動、心理的プロセスなど、多角的な視点からそのメカニズムを統合的に捉え直し、自閉症児へのセッションなど実践的なアプローチを行っている。

演奏家の枠を超え、箏を「心と身体を整えるエネルギー療法のツール」として再定義するその活動は、伝統文化の新たな可能性を広げている。

ジャズピアニストとのユニットYAMATO LOUNGE、絵本読み聞かせコラボ、マルチメディアユニットCOMNAL、ポッドキャスト番組「スナックちゃべ」のパーソナリティ、Otonamiでの寺院体験演奏など、多岐にわたる活動を通じて現代における癒しと再生を提案している。

リンク

琴線Lab HP

https://kinsenlab.com

大人のための非日常体験Otonami 箏体験

https://otonami.jp/experiences/nakashimarin-2ryomon

●COMNAL 

●Limb CJ, Braun AR (2008) Neural Substrates of Spontaneous Musical Performance: An fMRI Study of Jazz Improvisation. PLoS ONE 3(2): e1679. 

最新情報・イベント出演情報

■十夜会 奉納公演

出演:YAMATO LOUNGE(中しまりん / 箏、後藤魂 / ピアノ)
出演日時:2026年10月20日(火)16:00〜(法要 15:00〜)
会場:瑞華院 了聞 7階 本堂(東京都港区南麻布5-1-4/東京メトロ日比谷線「広尾」駅 4番出口から徒歩3分)
参加料:無料(要予約)

ご予約・お問い合わせ:瑞華院 了聞 TEL 03-6277-3330(受付時間 9:00〜17:30)
詳細は、下記サイトをご覧ください。
https://ryomon.jp/

■COMNAL ライブパフォーマンス 2026 Nov「TETRAD テトラド」〜詩 × 朗読 × 箏 × ピアノ〜

出演:COMNAL(中しまりん / 箏、後藤魂 / ピアノ、坂城日日 / 朗読、Roy Taro / 詩)
出演日時:2026年11月6日(金)19:00〜21:00(18:30開場)
会場:En Dehors(東京都港区新橋5-29-4 吉岡ビル2F/JR新橋駅 徒歩6分)
会費:5,500円(税込・チャージ代込)/23席

ご予約は下記フォームより承ります。
https://forms.gle/HPPiY6mHKcTMrr3V7

■響きのファンタジア 絵本の読み聞かせコンサート〜クリスマススペシャル〜

出演:YAMATO LOUNGE(中しまりん / 箏、後藤魂 / ピアノ)/ 景山聖子(絵本読み聞かせ)
出演日時:2026年11月30日(月)13:30〜15:30
会場:日本橋三越本店 新館9階 三越カルチャーサロン
会費:5,500円(税込)

お申し込みは下記サイトより承ります。https://mitsukoshi.mistore.jp/bunka/product/7050900000000000000003669907.html